No.068 電車ごと船に乗って北欧へ—ドイツ・プットガルデンからコペンハーゲンへ渡る特別な旅

異文化

 

2000年代のヨーロッパを旅した人の中には、ドイツからデンマークへ向かう途中、「電車ごと船に乗る」という不思議な体験をした人も少なくないかもしれません。

私がその旅をしたのは、年末の寒い時期。ドイツの北端・フェーマルン島の港町プットガルデン(Puttgarden)から、デンマーク・ロービュ(Rødby)へと渡るルートでした。

フォーゲルフルークリーニエ――“鳥の飛行ルート”と呼ばれた道

この区間は「フォーゲルフルークリーニエ(Vogelfluglinie)」と呼ばれ、1960年代に開設されたドイツとデンマークを結ぶ国際鉄道航路の一部です。

ハンブルクやリューベックを出発した列車は、北上してプットガルデンの港へ。

そこからなんと、列車ごと巨大なフェリーに積み込まれるのです。

フェリーが出航すると、乗客は列車を降りて船内のデッキやカフェで過ごします。

窓の外には北海の冷たい風と水平線、そして薄曇りの冬の光。

わずか45分ほどの航海ですが、列車と船の境界が消えるその時間は、旅人にとってまるで“夢のような中継点”でした。

船の名前と当時の雰囲気

この航路を運航していたのは「スキャンドラインズ(Scandlines)」という会社。

当時、プットガルデン~ロービュ間を行き来していたのは「M/S Prins Richard」「M/S Prinsesse Benedikte」「M/S Deutschland」「M/S Schleswig-Holstein」といったフェリーたち。

白と青の船体が特徴的で、甲板に出ると風が強く、体の芯まで冷えるような冬の北欧の空気が広がっていました。

到着後は、再び列車の旅へ

フェリーがロービュに到着すると、再び列車が線路に戻されます。

そのままナストヴェズ、ロスキレを経由してコペンハーゲン中央駅へ。

港の匂いが消え、車窓に雪景色が広がるころ、首都の街の灯りが少しずつ近づいてくるあの瞬間は、今でも鮮明に覚えています。

今はもう見られない「電車ごと船に乗る」風景

この特別な体験ができた鉄道フェリーの運行は、2019年12月をもって終了しました。

現在、ハンブルクからコペンハーゲンへ向かう国際列車は、ユトランド半島経由に変更されています。

それでも、プットガルデン~ロービュ間のフェリー航路自体は今も健在で、車や徒歩の乗客を乗せて往復を続けています。

実際に、当時使われていた船のいくつかは、今でも現役で活躍しています。

未来へつながる「海の線路」

将来的には、フェーマルン海峡の下にトンネルを通す「フェーマルン・ベルト固定リンク(Fehmarnbelt Fixed Link)」が開通する予定です。

完成後は、ドイツとデンマークを陸続きのように結び、鉄道も車もよりスムーズに往来できるようになります。

けれども、かつてのように列車が船に乗り込み、海の上を進んでいく――そんな“旅情あふれる時間”は、もう二度と戻らないものとなりました。

旅の記憶として残る瞬間

年末の冷たい海風、フェリーのデッキから見た北の海、船内で漂うコーヒーの香り。

そして、再び列車に乗り込み、窓の外に雪が舞うデンマークの大地が広がる——

それは、移動そのものが旅のハイライトだった時代の、かけがえのない風景でした。

皆様の思い出に残る旅行のハイライトには、どんなものがありますか?

よろしければ、コメント欄にお寄せいただけると嬉しいです!

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